タンパク質の研究が進み、色々なことが分かってきています。結論だけ知りたい方は目次の「まとめ」をクリックしてください。
1日のタンパク質の必要量
厚生労働省は17の研究の値を平均して、タンパク質維持必要量を「体重1kgにつき0.65g」としました。ただ、平均10%が消化されずに排出されるため0.9で割り「体重1kgにつき0.72g」、更に個人差を見積りこれに1.25かけた量、つまり、計算の結果「体重1kgにつき0.9g」のタンパク質の摂取が必要としました。
良質(動物性)たんぱく質の窒素出納維持量を検討した 17 の研究 14─28)の値を平均するとたんぱく質維持必要量は0.65 g/kg 体重/日(104 mg 窒素/kg 体重/日)となる。この値をもってたんぱく質維持必要量とした(表1)。
女性(12 人)で日常食混合たんぱく質の消化率を実測した研究では、平均で92.2% と報告されている 19)。また、男性(6人)について測定した結果は 95.4% であった 29)。これらより、日常食混合たんぱく質の消化率は90% とし、以下の式で推定平均必要量を算定した。推奨量は、個人間の変動係数を 12.5% と見積もり、推定平均必要量に推奨量算定係数 1.25 を乗じた値とした。
推定平均必要量算定の参照値(g/kg 体重/日)=たんぱく質維持必要量÷消化率=0.65 ÷ 0.90 = 0.72
推定平均必要量(g/日)=推定平均必要量算定の参照値(g/kg 体重/日)×参照体重(kg)
推奨量(g/日)=推定平均必要量(g/日)×推奨量算定係数
厚生労働省
逆に、現時点ではタンパク質の耐容上限量を設定する明確な根拠となる報告が十分には見当たらないことから、取り過ぎによる健康被害は起こらないと考えられています。
妊婦・高齢者のタンパク質必要量
上記の必要量は一般人を対象としていて、妊婦・高齢者に関しては別に必要量が設定されています。
妊婦
妊婦は、自身の体重に基づいたタンパク質摂取に加え、妊娠初期0g、中期10g、後期25 gの摂取が必要です。
こうして各研究から得られた値を単純平均して算出すると、初期:0g / 日、中期:1.94g / 日、後期:8.16g / 日となる。また、たんぱく質の蓄積効率を 43% 65)とした。妊婦の付加量(推定平均必要量)は、これらの値を用い、初期(0g / 日 ÷ 0.43=0g / 日、丸め処理を行って 0g / 日)、中期(1.94g / 日 ÷ 0.43 = 4.51g / 日、丸め処理を行って 5g / 日)、後期(8.16g / 日 ÷ 0.43 = 18.98g / 日、丸め処理を行って 20g / 日)とした。付加量(推奨量)は、個人間の変動係数を12.5%と見積り、推定平均必要量に推奨量算定係数1.25を乗じて、初期0g / 日(丸め処理を行って0g / 日)、中期5.64 g / 日(丸め処理を行って10g / 日)、後期23.73g / 日(丸め処理を行って25g / 日)とした。
厚生労働省
高齢者
高齢者は、「体重1kgにつき1.0625g」のタンパク質摂取が必要です。
高齢者のたんぱく質の推定平均必要量算定の参照値について検討した報告のうち、被験者個々の窒素出納結果が記載されていた5研究23,59─62)の60人の被験者の窒素出納144データを用いたプールド・アナリシスを行い、得られた平均値0.85g / kg体重 / 日(136mg窒素 / kg体重 / 日)を推定平均必要量算定の参照値とした(図1)。ただし、この値は、混合たんぱく質の消化吸収率に90%、 その他の窒素損失に実測値又は 5 mg/kg 体重/日を用いて補正した後のものである。また、推奨量 は、個人間の変動係数を成人と同様に12.5%と見積もり、推定平均必要量に推奨量算定係数1.25を乗じた値とした。
推定平均必要量(g / 日)=推定平均必要量算定の参照値(g / kg体重 / 日)×参照体重
推奨量(g / 日)=推定平均必要量(g / 日)×推奨量算定係数
厚生労働省
特に高齢者は、フレイル予防のためにタンパク質を摂取することが推奨されています。
フレイルとは「衰弱」を意味し、「要介護状態に至る前段階」と定義されています。フレイルサイクルの悪循環に陥ると、運動能力の低下で転倒や骨折を誘発し、最悪の場合寝たきりになってしまいます。
日本人の栄養問題の変遷と今、直面する”栄養障害の二重負荷” 問題解決の鍵を握る 牛乳の力
【医療従事者監修】フレイルとは?特徴や対策を正しく知って介護対策を|栄養お役立ち情報|ネスレ
アスリートのタンパク質必要量
上記の基準は一般人を想定したものであり、持久力系アスリート・筋力系アスリート共に、トレーニングからの回復や筋肉の成長を支えるために、さらに多くのタンパク質が必要です。
Nutrition and Athletic Performance
ただ、1,863名の参加者を対象とした49の研究データにより、レジスタンストレーニング(いわゆる筋トレ)実施者が、1日に1.62g / kgを超える量のタンパク質を摂取しても、それ以上筋肉は増加しないことが分かっています。
A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults | British Journal of Sports Medicine
まとめると、筋肉量維持のために最低でも体重1kgにつき0.9gのタンパク質が必要、どんなにトレーニングをしたとしても体重1kgにつき1.62gまでのタンパク質摂取が有効、ということになります。計算すると、体重60kgなら54 ~ 97.2gです。
ただ、軽度ないし中等度の運動(200 ~ 400kcal / 日)を行った場合には、タンパク質必要量は増加しないことが報告されていますので、該当する方は追加摂取の必要はないでしょう。
Japanese Dietary Protein Allowance is Sufficient for Moderate Physical Exercise in Young Men
Recommended daily exercise for Japanese does not increase the protein requirement in sedentary young men
タンパク質を摂取すると太る?
アメリカの研究で、摂取カロリーの一部をホエイプロテインに置き換えるだけで減量している実験結果が出ています。
摂取カロリーの一部をホエイプロテインに置き換えた場合、ホエイプロテインを摂取することで参加者の体重が平均4.2キログラム減りました。更に、ホエイプロテインの摂取と筋肉トレーニングを組み合わせた場合、参加者の除脂肪体重(LBM)が平均2.24 キログラムと統計的にも有意な増加を示し、筋タンパク質合成への効果が確認されました。
新たなメタ解析研究結果発表 ホエイプロテインが身体組成の改善に有効であることを示唆 ホエイプロテイン摂取が体重および体脂肪の減少と除脂肪体重の増加を促す
アメリカの別の研究でも同様の結果が出ています。
90人の被験者を、1)60g / 日の乳清タンパク質、2)60g / 日の大豆タンパク質、3)60g / 日の炭水化物を摂取する対照群、の3つの治療群のいずれかに6か月間無作為に割り付け、毎週、被験者の体重を測定した。
〜略〜
6か月後、ホエイプロテイン摂取群の体重は、炭水化物摂取群より1.8 ± 0.6 kg(2%)少なかった(P<0.006)。体重は、大豆タンパク質と乳清タンパク質の摂取群間(P>0.10)、または大豆タンパク質と炭水化物処理の摂取群間(P>0.10)で差はなかった。6か月後、体脂肪は、炭水化物処理摂取群に比べ、乳清タンパク摂取群で2.3 ± 0.8kg低かった(P<0.005)。除脂肪体重は、群間で差がなかった。
〜略〜
このように、炭水化物からの付加カロリーと比較して、ホエイプロテインからの付加カロリーは、体重を減少させることができる。体重の変化は、除脂肪体重に影響を与えることなく、体脂肪の減少に関連している。
Whey protein decreases body weight and fat in supplemented overweight and obese adults
つまり、トレーニングをしない人にもタンパク質は必要で、健康維持だけでなくダイエットにも繋がることが分かります。むしろ、タンパク質不足が原因で筋肉量が減り、基礎代謝が下がることが太る原因になりかねません。
基礎代謝だけを見ると筋肉1kg当たり13kcalと少ないですが、これは動いていない状態での話です。ただし、筋肉が多い人は、肝臓や腎臓、心臓といった代謝が非常に活発な組織も大きい傾向があります。そのため、報告によって非常に大きな差があるものの、除脂肪体重でみると、筋トレによる除脂肪量(=体脂肪以外の量)1kgの増加につき、基礎代謝量は50kcal近く増える傾向にあります。
保健指導、食事、運動、エネルギー代謝に関するQ&A集|国立健康・栄養研究所
皆さんも1回は「プロテインを飲むと太る」という話を聞いたことがあると思います。確かにタンパク質は1gにつき4kcalあるので、過剰に摂取した場合には脂肪として蓄積される可能性もありますが、現代人は偏食や過剰なダイエットによりタンパク質が不足する傾向にありますので、正しい量のタンパク質を摂取する分には問題ありません。
むしろ、タンパク質、特にホエイプロテインを摂取することで、食欲が減ることが分かっており、余計なエネルギーの摂取をしなくなる可能性があります。
Casein and whey exert different effects on plasma amino acid profiles, gastrointestinal hormone secretion and appetite
タンパク質を摂取するタイミングと回数
タンパク質は、細胞内で絶えず合成と分解を繰り返しています。この合成と分解を同じにし、筋量を維持するためには、規則正しい1日3回の食事によるタンパク質摂取が望まれます。
一般成人において、筋量は異化作用(空腹時、疾患、ストレスなど)と同化作用(栄養摂取、筋収縮など)の微細なバランスによって一定に保たれています。筋たんぱく質合成と分解の差(出納バランス)がプラスの状態、つまり筋たんぱく質の合成速度が分解速度を上回った場合のみ筋量の増加が可能となり、逆にたんぱく質分解速度が合成速度を上回る時間帯が長くなると異化作用が亢進し筋量が減少する。空腹時において筋たんぱく質の出納バランスはマイナスであり、通常食事摂取によってのみ出納バランスがプラスに移行する。その結果、空腹時に失われた筋たんぱく質が食事で補われることで、24時間の出納バランスがプラスマイナスゼロとなり、筋量が維持される(図 1)。
筋肉量の増加に向けた効果的なレジスタンス運動とたんぱく質摂取
骨格筋量の維持・増加に向けたたんぱく質摂取の重要性|農畜産業振興機構
必須アミノ酸は、砂糖の摂取により(血糖値の上昇により)増加したインスリンの働きによってより多く筋肉に取り込まれ、筋肉を構成するタンパク質の合成が促される結果、筋力増強をもたらすことも分かっているので、そういった点でも、規則的に食事をすることが重要だと分かります。
砂糖の筋肉増強作用について|農畜産業振興機構
加えて、2021年に早稲田大学で行われたマウスを使った実験で、1日の総タンパク質摂取量が同じ場合、朝食で多く摂取した方が筋量の増加が促進したとの結果が出ました。
マウスを1日2食の条件下で飼育し(図2、起床後の餌を朝食、就寝前の餌を夕食と定義)、1日の総タンパク質摂取量を揃えた上で各食餌のタンパク質含量を変化させた場合、朝食に多くのタンパク質を摂取したマウスでは、夕食に多く摂取したマウスや朝・夕食で均等に摂取したマウスに比べて筋量の増加が促進しました(図2右)。1日のタンパク質摂取量が同じ場合、朝(活動期のはじめ)に重点的に摂取した方が筋量の増加には効果的であることを示しています。
タンパク質摂取時間と筋量増加の関係 – 早稲田大学
高齢女性における実験でも同様の結果が出ていることから、人間にも共通するということが言えます。
高齢女性を対象に、3食のタンパク質の摂取量と骨格筋機能との関係性を調査しました。その結果、夕食で多くのタンパク質を摂取しているヒトに比べて、朝食で多くのタンパク質を摂取しているヒトでは、骨格筋指数や握力が高く、1日のタンパク質摂取量に対する朝食でのタンパク質摂取量の比率と骨格筋指数は正の相関を示すことがわかりました。観察研究であるため因果関係はまだ不明な点がありますが、ヒトでも朝のタンパク質が筋肉量の維持・増加に有効である可能性が示されました。
タンパク質摂取時間と筋量増加の関係 – 早稲田大学
立命館大学の研究でも、朝食時のタンパク質摂取量が少ないと、筋トレに伴う筋肥大に対して悪影響を及ぼすことを示しています。ちなみに、昼食時にタンパク質必要量として定められた量を摂取した人としていない人の筋量増加に相関関係は見られませんでした。
昼食においても夕食に比較してたんぱく質または必須アミノ酸の摂取量は少なく,0.61g / kgLBMを下回っていた被験者が存在した.しかし,昼食たんぱく質量が0.61g / kgLBMを下回っていた被験者におけるレジスタンストレーニングによる両脚骨格筋量の増加とたんぱく質摂取量との間には,有意な相関関係はみられなかった.朝食では相関関係が得られ,昼食では相関関係が得られなかった結果の不一致のメカニズムは,現在の結果から明らかにすることは出来なかった.考えられる要因としては,1日の内で最も長い絶食期間である就寝中から明けて初めて食される食事が朝食であることがあげられる.朝食のたんぱく質摂取量は,就寝中の絶食状態に起こっている筋タンパク質分解を抑制することに影響をおよぼす可能性が考えられる.
筋肥大を効果的に高めるたんぱく質 およびアミノ酸摂取の探索
そうだとしても、一度に約20g以上のタンパク質を摂取してもあまり意味が無いというデータもあります。極端な話、朝だけで1日のタンパク質必要量を摂取すれば良い訳ではありませんので注意しましょう。
タンパク質(アミノ酸)を摂取すると筋肉の中でのタンパク質合成が上がるということは、この連載で何度か説明してきました。では、摂取する量を増やせば増やすほど合成が上がるかと言うと、そうではないことがわかってきています。あるところで合成は頭打ちになり、それ以上タンパク質を摂ってもあまり意味がないようなのです。
頭打ちになる量は20g前後というデータも報告されています(ただし、高齢者は40g前後まで合成が上がっていくようです)。これは普段の食事だけでなく、トレーニング後のプロテインの補給でも同様で、どんな状況であっても基本的には20gがタンパク質量の上限値であるようです。
この現象は「マッスルフル」と呼ばれています。筋肉が“お腹いっぱい”の状態ということなので、それ以上のタンパク質を摂っても筋肉は食べられないわけです。40 ~ 50gの量を摂っても吸収はされますが、それが筋肉の材料になっているわけではなく、余分なものはエネルギー源として燃やされてしまいます。
タンパク質の摂取を増やせば増やすほど、筋肉が増えるわけではない!:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)
まとめ
以上の研究結果を元に計算すると、運動量に応じて体重1kgにつき0.9 ~ 1.62gのタンパク質を、つまり体重60kgで54 ~ 97.2gのタンパク質を、1日3食の食事と運動の後の4回に分けて摂取する必要があるということです。なので、最大で各食事で25g、運動後に25gのタンパク質を摂取することになるでしょう。(朝食は抜かないようにしましょう。)
必然的に、運動後のタンパク質摂取にはプロテインを活用することになると思いますが、食事の中で摂取しきれなかった場合も同様です。また、プロテインと比較して、食品には炭水化物や脂質が多く含まれている場合がほとんどなので、無理に食品で必要量のタンパク質を摂取しようとはしないことも重要です。
たんぱく質含有量の目安
その点、ほとんどの方が自宅で過ごす朝夕食時は、タンパク質の不足分を粉末のプロテインで補えば良いのですが、昼食はオフィスで食べるため中々そうはいきません。かといってプロテインバーはお菓子に近いので糖質も多いです。
そこで私は、健康体力研究所という国内のメーカーが発売している、錠剤の大豆プロテインを活用しています。ただ、タンパク質7.5g摂取しようとすると20粒飲まないといけない計算になるので少し大変です。(20粒で炭水化物1.1g、プロテインバーの10%以下です。)
汁物の方が良い方には味の素の味噌汁かスープをおすすめします。1袋あたりのたんぱく質と炭水化物の量は以下の通りです。私自身全種類飲みましたが、味は全然普通の味噌汁・スープです。(右にスクロールできます。)
豆腐とネギ の味噌汁 |
なすと油揚げ の味噌汁 |
コーン クリーム |
ポタージュ | |
---|---|---|---|---|
たんぱく質 | 8.5g | 8.2g | 8.0g | 8.0g |
炭水化物 | 4.0g | 3.9g | 16g | 13g |
丸善のささみソーセージも評価が高いのですが、私が食べた感じ美味しくなく、しょっぱく、正直おすすめしません。
以上、参考になれば幸いです。
【次回】