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【筋トレ】筋肥大のメカニズムのまとめ

石井直方先生の日経Goodayでの連載「“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学」を集約しました。(3/4)

私の執筆は殆ど無いため広告は付けませんですが、皆さんに共有したい内容なので記事にします。

筋肉はトレーニング開始から1週間で太くなり始める

筋力の大小を決める最大の要因は何でしょう。それは筋の断面積。つまり筋力をアップさせるためには、筋肥大が最も重要な課題となります。

レーニングをした直後に少し筋肉が太くなる、いわゆるパンプアップも短期的な筋肥大ということができます。ですが、ここで論じるのは、もっと長期的な視点での筋肥大。一定期間、筋肉を鍛えることで、パンプアップとは違う状態で筋肉そのものが太くなることを指しています。

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本格的な筋肥大が起こるまでには1~2カ月は必要と考えられていましたが、最新の装置では1週間ほどで変化が見えるようになっています。したがって現在は、トレーニングを開始してから比較的早期の段階で、筋肉は少しずつ太くなり始めると考えられています。

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続いて筋パワーのトレーニング効果ですが、これは筋肉の「力―速度関係」から求めることができます。パワーは力×速度なので、縦軸の力と横軸の速度とを掛けていけば、力とパワーとの関係を簡単に導き出すことができます。その上で、ピークパワーがどう変わったか、パワーを出せる範囲がどのくらい広がったか、といったことを分析していくわけですが、基本的にはピークパワーだけで考えるのではなく、パワーカーブの特徴がどう変わったかという見方をする必要があると思います。

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最大筋力の30%程度の軽い負荷を使って素早い動きでトレーニングをすれば、最大筋力はあまり伸びていないのに30%でのピークパワーだけが上がるという結果になります。神経系の機能が高まることが、その要因です。これでもトレーニングによってピークパワーが上がったという見方をすることはできますが、それはあくまで一部の評価にすぎません。

逆に、重めの負荷を使って筋肥大を促すようなトレーニングをした場合は、ピークパワーもそれなりに上がりますが、パワーを出せる力の領域全体が広くなるという効果が得られます。

筋力や筋肉のサイズを変えずにピークパワーだけを高めたいという特殊な目的がある場合には、低負荷強度でスピードを重視したトレーニングでもかまいませんが、いろいろな状況で大きなパワーを発揮できる筋肉をつくりたいという場合には、30%のポイントだけピークが上がってもあまり意味はありません。ですから通常はまず筋力を高め、ピークパワーを高めると同時に、大きなパワーを発揮できる力のレンジを広くすることが重要となるのです。

筋肉はトレーニング開始から1週間で太くなり始める:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

筋肉の立ち上がり速度を高めるトレーニン

最大筋力が最終的に高い人でも、筋力を発揮し始めてから0.5~1秒という時間をかけてゆっくり力が上がっていくタイプである場合、その筋力を素早い動作に結びつけることは難しくなります。素早い動作というと、例えば200~300ミリ秒といった短い時間での筋力発揮が要求されるので、その間に筋力を立ち上げることができるかどうかが問題となってきます。

図にあるように、筋力の立ち上がりの曲線からピークの半分に達するまでにかかる時間を測定すると、「2分の1立ち上がり時間」と呼ばれる数値を出すことができます。これが筋力発揮速度の有効な指標になります。2分の1立ち上がり時間が短いほど、筋力がピークに達する時間が速いということ。これを筋力トレーニングで高めていくことが、素早いスポーツ動作の下地になっていくのです。その上でスポーツ独自の技術練習をすれば、パフォーマンスの向上も期待できるでしょう。

普通のトレーニングでは、筋力発揮速度を高めることはなかなかできません。負荷が重くなるほど負荷を動かすことが重要になってくるため、立ち上がりの速さには結びつきにくいのです。だからといって、重い負荷を急速に跳ね上げようとすると、ケガをする危険性が高まります。

筋力発揮速度を高めるには、少し軽めの負荷を使い、瞬間的に大きな力を出して素早く動かす、いわゆるバリスティックなトレーニングが求められます。負荷としては1RMの30~50%ほどで十分。ただし、一気に負荷を持ち上げるというタイプのトレーニングをすることです。

簡単なようで難しい? 握力や背筋力を正しく測定する方法とは:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

動的筋持久力と静的筋持久力

筋持久力には「動的筋持久力」と「静的筋持久力」の2種類があります。静的筋持久力は、一定の姿勢や筋力をいかに長く維持できるかという能力です。例えば、あおむけに寝て足を挙げて何分間持続できるか。あるいは、しゃがんだ状態で何分間キープできるか。いわゆる“空気椅子”ですね。

一方、動的筋持久力は、一定の動作を一定のリズムで何回繰り返すことができるか。あるいは、一定の負荷を一定のリズムで何回持ち上げることができるか。例えば、腕立て伏せが何回できるか、といった能力のことです。

また、スポーツなどでは、軽い負荷での弱い筋力発揮だけでなく、強い筋力発揮をどのくらい持続できるか、どのくらい繰り返し発揮できるかといったことも重要になります。動的持久力と静的持久力とには相関があるので、基本的には動的持久力が高い人は静的持久力も高くなります(完全にイコールというわけではありません)。

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動的筋持久力のトレーニング効果を測るためによく行われているのは、最大筋力の30%の負荷を何回挙上できるか、というものでしょう。

面白いことに、動的筋持久力を高めるには、30%よりも少し軽い負荷を使ったトレーニングをしたほうがいいということがわかっています。20~25%の負荷を使って挙上不能になるまで繰り返すことを続けていくと、30%で評価をしたときの回数が上がるのです。

ですからトレーニング効果を高めるためには、より軽い負荷で、回数を増やすようなトレーニングを行ったほうがいいといえます。

しかし、あまり軽くなってしまうのもNG。例えば20%以下の強度になってしまうと、ほぼ無限の回数を繰り返すことができる日常的な負荷強度になってしまいます。そうなると、何回やっても疲れません。500回やってもまだ大丈夫という負荷になったら、もうトレーニング効果はなくなってしまいます。

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筋持久力が高まると、筋肉の中の何が変わるのかーー。最も顕著なのは筋肉の中の血流量です。つまり、筋持久力のトレーニング効果は、筋肉の中の毛細血管が増え、運動中に筋肉の中を流れる血液の量が増えるということが基礎的なメカニズムになります。

筋肉の持久力をアップするには、軽い負荷で回数を増やすのがベスト:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

左右の筋肉がアンバランスだと感じる人のトレーニング法

筋力トレーニングの種目にはいろいろな種類がありますが、大きく分けると両手・両足で同時に行うものと、片手・片足ずつ交互に行うものとがあります。前者を「バイラテラル(両側性)トレーニング」、後者を「ユニラテラル(一側性)トレーニング」といいます。

基本的な種目でいうと、バーベルを用いるものはバイラテラル、ダンベルの場合は、バイラテラルとユニラテラルの両方が可能です。どちらがいいということではなく、それぞれの特徴を理解して使い分けることが大切です。

まず知っておかなければいけないのは、両側性の筋力発揮をするときは、片側ずつ筋力発揮をしたときの足し算よりも、合計が小さくなってしまうという生理学的な現象があることです。これを専門的な言葉で「両側性欠損(バイラテラルディフィシット)」といいます。

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左腕と右腕の筋力が微妙に違う場合〜略〜それぞれダンベルカールでトレーニングすると、左でできる回数と右でできる回数が違ってしまいます。あるいは、左で扱えるダンベルと右で扱えるダンベルが違ってしまうケースも考えられます。そうなると、結果的に左右の非対称性をどんどん増悪してしまうという危険性もあります。それを避けるためには、やはり必然的に弱いほうの筋力に支配されるバイラテラルのほうが望ましいといえるでしょう。

また、ユニラテラルは(種目にもよりますが)、どうしても身体の片側にだけ重たい負荷がかかるため、トレーニングを行っている箇所以外にストレスがかかってしまうということもあります。その結果、フォームそのものが非対称になってしまい、それが原因でどこかを痛めてしまうということも考えられます。

左右の筋肉がアンバランスだと感じる人のトレーニング法:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

では次に、ユニラテラルレーニングのメリットについて考えてみましょう。

多くのトレーニングにおいて、バイラテラルのほうがユニラテラルよりも動作の制約が大きくなります。例えばベンチプレスマシンでは背もたれに背中を固定した状態でバーベルを動かすので、使われる筋肉も限定的になってしまいます。

一方、ダンベルやオルタネート(交互)でプレス動作ができるベンチプレスマシンでユニラテラルのプレスを行うと、体幹の回旋や肩甲骨の動きなども利用しながら負荷を上げることになるので、バイラテラルよりも自由度が高くなります。また、これは実動作に近い動きということもできます。大胸筋を鍛えるという目的のためにはバイラテラルのほうが適していますが、スポーツで両腕同時にプッシュする場面はほとんどありません(相撲の諸手突きなどはありますが)。ということは、スポーツの動きを養うトレーニングとして考えた場合は、ユニラテラルのほうが適しているといえるのです。

ジャンプ動作も同様。バイラテラルで強く地面を蹴るシーンは、バスケットボールのシュートの一部、バレーボールでブロックをするときなどで、あまり多くはありません。それよりも助走をつけて片足でジャンプするケースのほうがはるかに多いでしょう。また、走る動作も左右交互にジャンプを繰り返しているのと同じですから、ユニラテラルな筋力発揮の連続になります。このように、スポーツの動きはユニラテラルが基本ですから、バイラテラルなトレーニングだけでは、むしろ動作への対応性が落ちてしまうことも考えられます。

片側ずつ交互に鍛える“ユニラテラルトレーニング”を取り入れるコツ:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

過去の筋トレの成果は10年先まで残る?

筋肥大には、大きく分けて2つのメカニズムが関係していることが、はっきりわかっています。

1つは「筋線維再生系」。これは筋線維が壊れたり傷ついたりしたときに再生をする仕組みで、筋トレによって活性化します。その役割は、細胞を作って筋線維を増やしていくこと。さらに、筋線維1本1本を補修しながら少しずつ太くしていくことにも、この再生系という仕組みが深く関わっていることがわかっています。

もう1つは「タンパク質代謝系」。これはタンパク質が筋線維の中で合成されたり分解されたりする仕組みのこと。筋トレによって筋肉が太くなるのは、筋線維の中で、アクチンやミオシンといった筋肉が収縮するために必要となるタンパク質の量が増えるからです。

タンパク質の合成が高まれば筋線維は太くなっていきますが、それと同時にタンパク質を分解するシステムも働いています。合成と分解のスピードが同じであれば、細胞が入れ替わってフレッシュになっても、筋肉のサイズそのものは変わりません。

筋トレを行うと、タンパク質の合成が上がり、同時に分解が下がるという現象が起こります。合成と分解は切り替えスイッチのような仕組みになっているようで、どちらかが上がると、どちらかが下がるのです。合成が分解を上回れば筋肉の中のタンパク質の量が増えていき、筋肥大が起こるということが実験でも確かめられています。

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筋線維には、「筋サテライト細胞」と呼ばれる幹細胞(筋線維のもとになる細胞)がペタペタとへばりついています。普段は眠ったような状態なのですが、筋トレをすると目覚めて増殖します。そして、前述したように新しい筋線維を作る場合もあるし、へばりついていた筋線維に融合して、その中に新たな核を挿入する場合もあります。

実は筋線維の核そのものが増えることが確定したのは、ここ2年ほどの話です。そしてヒトの場合、その核は筋トレをやめて筋線維が細くなってしまっても、10年前後は残り続けるのではないかと考えられています。これは「マッスルメモリー」といわれるメカニズム。一度しっかり筋肉をつけておけば、10年先までその記憶が残っていて、トレーニングを再開したときに通常よりも早く筋肥大が起こるようになります。これも、筋線維再生系の新たな役割として注目されています。

過去の筋トレの成果は10年先まで残る?:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

筋肥大のメカニズム

レーニングをしたり、力を出したりすると筋肉が太くなる、というわかりやすい現象は確かに存在しています。しかし、研究者としては、そこの部分の解明が一番難しいもの。つまり、筋トレの「何が」筋肉を太くするのかがわからないのです。

それがわかれば、筋トレそのもののやり方も劇的に変わってくる可能性があります。「何が」の正体を突き止められれば、それを一番強く刺激する方法を行うことで、筋肉は一番太くなるはずだからです。

とはいえ、完全に解明されていないなかでも、「何が」の候補はあります。上の図がそれで、「メカニカルストレス」「代謝環境」「酸素環境」「ホルモン・成長因子」「筋線維の損傷・再生」という要因が複雑に絡み合っていると考えられています。これらの複合効果によって筋肉は太くなっていく可能性が高いのですが、何がどのように働いているのか、まだ結論を出せる段階ではありません。

今回は、上記5つのなかで特に大事だとされているメカニカルストレスについて説明していきましょう。

カニカルストレスとは、力学的な刺激ということですが、それで筋肉が太くなるのは当たり前といえば当たり前。強い力に対抗したり、それに耐えたりするための適応現象として筋肉は太くなるので、メカニカルストレスを抜きにして筋肥大は語れません。

それなら高強度のトレーニングをすれば筋肉が太くなるだろう、と考えるのも自然なこと。そういう発想は100年以上前からあり、「近代ボディビルの父」と呼ばれるユージン・サンドウなどもそうして筋肉をつくっていったわけです。そんな筋肉愛好家たちの体験や研究によって、「80%1RMの負荷を8回×3セット」といった負荷強度の原則も作られてきました。

 研究者の役目としては、80%1RMでは太くなるのに、なぜ60%1RMでは太くならないのか?という問いに対して生理学的な説明を加えていかなければなりません。それで導き出されたものが、例えば第22~23回で紹介した「サイズの原理」。弱い力を発揮するときには運動単位のサイズの小さい遅筋線維しか使われず、大きな力を発揮するときに速筋線維が使われるというものです。

筋肉を太くするには、速筋線維を使わなければならない。そして、ある程度以上の大きな筋力を出さないと、サイズの原理によって速筋線維は使われない。だから、重い負荷を使って大きな力を出さないと筋肉は太くならない、という説明が昔からなされてきました。

実際、ごく普通の筋力発揮をするトレーニングの場合、速筋線維をフルに稼働させないと筋肉が太くならないことは、数々の実験で確かめられてきました。

しかし、その後にわかってきたことは、速筋線維をフルに使うという条件で考えたとき、必ずしも80%という負荷強度でトレーニングをしなくても同じ状況をつくることは可能だということです。

典型的な例としては加圧トレーニングが挙げられます。筋肉をベルトで締めつけることで筋肉はあっという間に疲労し、速筋線維が早い段階で使われるようになります。

筋肉の張力を維持しながら動くスロートレーニングでも、同じことが起こっていると考えられます。私たちの研究でも、スロートレーニングの最後のほうでは速筋線維が使われていることを確かめています。このように、やり方によって80%1RMという負荷を使わなくても筋肉が太くなることは、現在では新しい常識となってきています。

また、力を出しながら筋肉が引き伸ばされるエキセントリック(伸張性収縮)を利用することも、強い力を出さずに速筋線維を使う方法の1つです。

さらに、最近の研究では、軽い負荷であっても筋肉が疲労困憊に追い込まれるまで動作を繰り返せば、やはり速筋線維が使われやすくなるということがわかっています。

ただ、すべてのメカニカルストレスにいえることは、1回や2回の刺激では不十分だということ。ある一定時間、あるいは繰り返し力を発揮することによって、筋肉にたくさんのエネルギーを使わせないと、筋肉を太くするほどの刺激にはなりません。これは「代謝環境」に関わる問題です。この代謝環境も、メカニカルストレスとともに筋肥大の重要な要因であると考えられます。

筋肉を太くするカギは速筋線維! 鍛え方の“新常識”とは?:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

筋線維の損傷・再生について、トレーニングの現場では「筋トレで筋肉を壊す」といった極端ないい方をされることがあります。しかし、実際には筋線維はそれほど簡単に壊れることはなく、多くの場合は筋肉が疲労している程度、あるいは筋肉の細胞膜の機能が少し損なわれている程度であると考えられます。エキセントリック(伸張性収縮)トレーニングなどでは、構造的にはっきりわかる小さな傷ができることはありますが、それも筋肉に大きなダメージを与えるようなレベルのものではありません。

筋トレ効果を増強する成分とは、ドーピングの懸念も:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

万能なトレーニングは存在しない!

レーニングの教科書には、古くから「特異性の原則」というものが書いてあります。これは、あるトレーニングを行った場合、そのトレーニングに対しての効果しか上げることができないということ。つまり、トレーニングの刺激には特異性があるという原則です。

筋持久力を高めるトレーニングを行えば筋持久力は高まりますが、筋力やパワーは向上しません。筋力やパワーのトレーニングであれば、筋持久力の向上は期待しないほうがいいということになります。

ところが、そうした特異性の原則の打破を期待する声は、いつの時代にもあります。筋力もつく、パワーもつく、筋持久力もつく、そんな万能薬のようなトレーニングがあるのではないかと。しかし、そうしたトレーニングの出現は、生理学的に見ても考えにくいことなのです。

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レーニングのなかには、一見、いくつかの効果をもっていそうなものもあります。

 例えば、筋力もつくけれども筋持久力もそれなりにつくもの。あるいは、筋持久力がつきながら、筋力もそれなりにつくもの。具体的には、サーキットトレーニングで少し筋力へのシフトを意識すれば、筋力がそれなりについて、筋持久力や全身持久力がかなり向上するという効果も期待できます。

 やり方によっては、そのような複合的な効果を狙えることは確かですが、実際には筋力への効果は、専門的な筋力トレーニングに比べれば落ちてしまいます。持久力においても、専門的なトレーニングよりは確実に落ちます。つまり、広い範囲の効果が狙えるトレーニングは、逆に個々の能力に対するトレーニング効果は低いと考えていいわけです。

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レーニング法はたくさんあります。何が良くて、何が悪いということはありません。それよりも、トレーニングを行う本人が、今の自分には何が必要か、どのトレーニングを行うべきか、それを考えることが重要です。それぞれのトレーニングの特徴を知り、自分の目的との兼ね合いで的確にメニュー決めていくことが、自分のレベルを上げたり、パフォーマンスを高めたりするコツといってもいいでしょう。

 トレーニングを選ぶポイントとしては、まずは自分が関わっている競技に合っているかどうか、自分自身の長所を伸ばし、短所を補うものになっているかどうか、といったことを基準に考えればいいと思います。ただ、適切なメニューであるかどうかは、年代によっても変わってくるでしょう。特に筋トレの場合、成長期が終わるまでは、あまり激しいものは避けるほうが無難です。

 目的に合わないトレーニングをむやみに取り入れる必要はありません。また、いろいろなトレーニングを無節操にあれこれと試すこともないでしょう。ただ、たくさんの知識をもっていればいろいろなケースに対応することができるので、ある程度の勉強をしておいたほうが、結果的に良い効果を得られる可能性は高くなるといえます。

 いくつかのトレーニングを行うにしても、1つのトレーニングを一定期間はしっかり続けることが大切です。新しいものに目が行きすぎて、1つのトレーニングが中途半端なまま終わってしまうと、せっかくの努力が水の泡になってしまいます。新しいものを学ぶことは大切ですが、信念をもって続けることも重視してほしいものです。

筋力もパワーも持久力もつく…そんな万能トレーニングはない!:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

前回は、1つのトレーニングには1つの効果しかないという「特異性の法則」について解説しました。唯一無二のトレーニングはないので、目的に合ったトレーニングを選ぶことが大切であるということもお話ししました。今回はそのことについて、もう少し考えてみましょう。

例えば、ある選手が体幹レーニングを行ったところ、競技のパフォーマンスが非常に上がったとします。それは体幹レーニングの効果が表れたと考えていいわけですが、実はその選手は四肢のパワーが強い割にコアが弱い、という特徴をもっていた可能性もあります。一見、筋肉があるように感じられても、全身がうまく連動していなかったために、動作が不安定になったり、再現性の高い動作ができなかったり、力の伝達がうまくいっていなかったりしたのかもしれません。そうした課題があったことに気づかず、たまたま取り入れた体幹レーニングで弱点が補強され、結果としてパフォーマンスが著しく上がったということもあり得ます。

つまり、このケースは“偶然”によって導き出された結果であり、それを見たほかの選手がコアさえ鍛えればいいと判断してしまうのは早計です。体幹は十分に強いけれども脚力に欠点がある、という選手がいくら体幹レーニングを行っても、パフォーマンスが劇的に上がるということはないでしょう。

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少し話がそれますが、確かに安定した力強い動作を再現性よく行うためには、体幹が非常に大切な役割を担っています。本格的な筋力トレーニングは成長期が終わってから始めたほうがいいのですが、体幹レーニングは適切に行えば、子どもが取り入れてもいいでしょう。

体幹の筋肉は、ある関節を単純に曲げ伸ばしするだけでありません。多くの関節からなり、自由度の高い脊柱を操る役割があります。前後左右の屈曲、ひねる動作など、脊柱周辺の筋肉を使ったさまざまな動作を適切に行うには、筋肉を強くする前に、筋肉をどう上手に使うかが問われます。特にスポーツにおいては、体幹の筋肉の使い方や操作の仕方を早い段階から習得することは、安定したパフォーマンス発揮につながるだけでなく、ケガの防止にも役立ちます。筋肉が痛くなるほど激しく行う必要はありませんが、日常的に取り入れることはプラスになると思います。

ただ、成長期の子どもで注意が必要なのは上下方向への強い圧迫です。これは脊椎骨そのものに強い負荷がかかり、成長軟骨の成長を阻害する危険性があるので、あまり重いものを担ぐようなトレーニングは選択しないほうがいいでしょう。負荷をかけるとしても、体幹レーニングでよく使われるようなゴムチューブなどであれば問題はないでしょう。

体幹を鍛えれば長友選手のようになれるか?:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

マンネリ筋トレでは、更なる筋肉アップは望めない!

身体のある機能を伸ばすためには、その機能に特化した刺激を与える必要があります。そして、そうした刺激を与え続けていると、「生体適応」という現象が起こります。これは刺激に対する身体の反応の1つで、筋力が強くなったり、筋肉が太くなったりして、刺激に対応しようとするわけです。

レーニング初期は、筋痛などによって一時的に筋力の低下が起こります(警告段階)。その後、適応によって筋力増加、筋肥大が起こります。そうしてある程度のレベルまでは順調に筋肉が成長していくのですが、その状態が長く続くと、今度は「馴化(じゅんか)」という現象が起こります。これは簡単にいえば「慣れる」ということ。そうなると、もう同じ刺激では筋力アップや筋肥大はあまり望めないということになります。

実は、適応と馴化との区別は難しい面もあります。適応は強い刺激に備えるために身体が強くなっていくことですが、それはやがて馴化し、同じ刺激を与えても身体が反応しなくなってきます。これは同じ刺激を加えたときに、「もう強くする必要はない」と身体が判断しているわけですから、ある種の適応と呼んでもいいかもしれないわけです。

いずれにせよ、同じ刺激を続けているだけでは、ある一定の水準以上の成長はしなくなってしまいます。もう1つ上の段階に進みたいと思ったら、違った刺激を与えなければいけません。そして、違った刺激でも馴化が起こったら、また刺激に変化を与えることが求められます。

つまり、本格的に筋肉を鍛えていきたいと思ったら、長期的な計画を立てることが不可欠。そこで重要になってくるのが「ピリオダイゼーション」です。 

ピリオダイゼーションとはトレーニングを期分けして刺激を変えること。そのやり方は大きく2種類に分けられます。

1つは、どこまでも向上するためのピリオダイゼーション。もう1つは、スポーツ競技などのシーズンに合わせた計画的なピリオダイゼーションです。

前者は、例えば3カ月おきにトレーニングのタイプを変えるのが基本的なやり方です。ストリクトスタイルで上げていたバーベルを、チーティングスタイルに変えてみたりすることで新しい刺激を筋肉に与えます。

競技であっても、パワーリフティング、ウェイトリフティングといった単純な種目の場合は、前者の部類に入るでしょう。日頃からトレーニングで行っていることと試合で行うことがほとんど同じなので、より重い負荷を上げることが基本的な課題となるからです。どこまでも純粋に挙上能力を高めていくためには、停滞やスランプを打破して、トレーニング効果を継続的に高めていく戦略を立てていく必要があります。

一方、後者は、オフシーズンから試合に向けて段階的に身体を仕上げていくピリオダイゼーションです。まずは時間のかかる筋肉づくりに取り組むのが普通でしょう。その後、次のシーズンが近づいてくるにつれて、鍛えた筋肉をパワーにつなげるようなトレーニングに変え、さらに実際の動きに生かすようなトレーニングに変えていく、という順序で進めていくのが一般的だと思います。

もちろん、試合直前になれば戦術的・戦略的な練習に多くの時間を割くことになると思いますので、身体は少し早めにつくっておく必要があるでしょう。

年間を通して試合が行われる競技もあるかもしれません。学生のスポーツも、月曜日から金曜日までが練習日で、土日が試合(練習試合を含む)というケースが少なくないでしょう。そのような場合、1週間というスパンで試合に向けた調整をしながら、長期的には筋力・体力をアップさせていく必要があります。

試合が終わった直後は、いきなり戦術的な練習をするよりも体力レベルを上げることを考えたほうがいいでしょう。ということで、月曜日・火曜日は筋力・パワー・持久力などの向上を重視したメニューを組むのがいいと思います。その後、試合が近づくにつれて、体力を消耗する要素を削りながら、戦術的なトレーニングに変えていく、というのがよく選ばれているやり方だと思います。

ピリオダイゼーションの期間が1年から1週間になっても、基本的には「筋肉・体力づくり」⇒「パワーアップ」⇒「パワーを競技の動きにつなげる」⇒「戦術・戦略」という流れはそのままで、全体を1週間に縮めるという考え方でいいと思います。

週末に理想的なパフォーマンスを発揮しようと思ったら、コンディショニングに関してもしっかりとした計画を練ってトレーニングを進めなければなりません。金曜日の夜に疲れてヘロヘロになっているようでは、圧倒的な実力差がある場合は別として、試合に勝つことは難しいでしょう。試合当日はなるべく万全の体調で臨めるようにプログラムを組みながら、練習はしっかりこなす、ということが両立できればベストだと思います。

マンネリ筋トレでは、更なる筋肉アップは望めない!:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)

「楽をしたら強くなれない」は生理学的にも正論だった

これだけヒトの身体に関する研究が進み、トレーニング科学が発達してくると、ともすれば必死にトレーニングをしなくても筋肉を肥大させることが可能なのではないか、テレビを見ながら筋肉を動かしていても強くなれる方法があるのではないか、という錯覚を起こしがちですが、そんな夢のような方法は今のところ見つかっていません。

「楽をしたら強くなれない」というのは昔の指導者の意見であり、根性論であるかのような印象を受けるかもしれません。しかし、これは生理学的にも正論です。なぜなら、身体が強くなる理由は、身体を強くしなければならない状況になったからであり、そういう状況に追い込まれたときに初めて生理学的適応が起こるからです。それが生物の基本的な仕組みなので、その仕組みを省略するという考え自体、無理があります。

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ただし、強くなるための刺激が必要だといっても、本当に必要な刺激以外のストレスが過剰に強くなってしまうのはNGです。鍛えたい筋肉に強い刺激が加わった結果として「キツい」「しんどい」と感じるのはいいのですが、それに加えて心臓や呼吸器などに過度の負担がかかり、「身体中がつらくて耐えられない」という状態になってしまったら、それは決していいトレーニングではありません。

目的としないところにまで余計なストレスがかかるのは、身体全体にとってもプラスではありませんし、目的とする筋肉を鍛える効果も半減してしまいます。また、フォームが乱れたり、関節などに不要な負荷がかかったりして、ケガにつながる危険性もあります。さらに精神的なストレスも大きくなり、結果としてトレーニングが長続きしないということにもなってしまうでしょう。

「楽をしたら強くなれない」は生理学的にも正論だった:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ)